体験ルポ

とちぎの百様めぐり 相田みつを氏を訪ねて足利へ。“東の小京都”探訪編

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古い建物が残る街並みや多数の寺社が点在する足利市は「東の小京都」と呼ばれ、今もなお歴史と伝統が息づく場所。書家・詩人の相田みつを氏はこの地で生まれ育ち、生涯を通して作品づくりに没頭しました。 今回はとちぎの百様から、相田みつを氏ゆかりの地と足利の名所を巡っていきます。
 
【相田みつを様】相田みつを氏の歴史、作品にふれる旅

足利市生まれの書家・詩人(1924-1991)。独自の感性から生み出される書風と格言は多くの人の心に響き、「書の詩人」「いのちの詩人」とも称されています。代表作の詩集「にんげんだもの」「おかげさん」をはじめ、足利市内の老舗の商品パッケージ、看板といった商用デザインなども手がけています。
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散策前に「足利まち歩きミュージアム」へ

“織物・染物のまち”として栄えていた足利市では、織物業の発展のため民間人が両毛鉄道(現在のJR両毛線)や足利銀行を創設し、この地の経済を支えてきました。足利商工会議所友愛会館B1階にある「足利まち歩きミュージアム」では、足利市の古代~近代の変遷に加え、地元で活躍した著名人が紹介されています。そのうちの一人として、相田みつを氏の歴史と作品にもふれることができます。
建物は旧足利銀行本店を再活用しているため、展示室の一部が金庫部屋なのにも注目を!
ドラマや映画のロケ地にもなっているそう。足利散策の前に立ち寄るのがおすすめですよ☆
 
若き頃から書や短歌に親しみ、書家の道を志す

大正13年、足利市で生まれ育った相田みつを氏は学生時代から書や短歌に影響を受け、旧制栃木県立足利中学校を卒業後、18歳で歌人・山下陸奥氏に師事しました。同年に曹洞宗高福寺の武井哲応老師と出会い、生涯に渡り曹洞宗の宗祖・道元が執筆した仏教思想書「正法眼蔵」を学ぶように。翌年、本格的に書家を志し、書家・岩沢渓石氏のもとで修業に励みました。

 
短歌・書・仏法、多彩な学びを経て独自の作品が誕生

書家の道を究め、最高峰の一つである「毎日書道展」では7年連続入選。技巧派の書家として認められるようになりましたが、専門家であるよりも独自の書風と言葉を追求し続けることに邁進しました。「筆一本で生きる」と決めたものの生活は苦しく、足利市内の店に自身の書や“ろうけつ染め”の作品を持ちこんでは、積極的に売り込みをしていたそう。そんな内情を知り、彼の作品を初めて採用したのは「旅館なか川」(現・めん割烹なか川)の初代女将・中川光子さんでした。「作品ができたら持っておいで」と声を掛け、店の看板をはじめ、部屋札、箸袋、マッチ箱のデザインなど幅広く手がけていたそうです。

 
まっすぐな言葉が、苦難を乗り越える人々の支えに!

その後、地元で個展を開くなど精力的に制作活動を行っていましたが、生活が厳しい環境で自分の好きなことだけを貫く姿は周囲から理解されず、「変わり者」として映っていた側面もあったとか。完璧ではない人生ゆえに書の中では自分の弱さをさらけ出し、まっすぐな心で綴っていたからこそ、苦難に直面した人たちの心に響いているのかもしれません。初めて出版した詩集「にんげんだもの」はミリオンセラーとなり、その後、相田みつを氏の存在は全国で周知されるようになりました。
奥の音声ガイドでは、広島カープの津田恒美投手が「道」という詩を心の支えにしていたという話や、阪神・淡路大震災で被災者の励みになっていたというエピソードも。平成3年に67歳で逝去しましたが、今もその人気は衰えていません。

 
相田みつを氏の作品に出合える「太平記館」

足利まち歩きミュージアムから徒歩約10分の場所にある「太平記館」では、足利市の土産品の販売や観光情報の案内、レンタサイクルの貸し出しなどを行っています。土産品は主に市内の店舗やメーカーから仕入れ、その数は約500種類ほど! 相田みつを氏がパッケージのデザインを手がけた商品も揃っています。

 
老舗のロゴや包装紙のデザインを手がける

相田みつを氏の作品を現在も使用しているのは、「香雲堂本店」の古印最中、「虎谷 藤本本店」の巨石せんべい、「一茶庵本店」の干しそば、「日東産業」の北陽千鳥ソース。いずれも創業70年を超えた老舗の銘品とのコラボレーションです。すべて各店舗オリジナルとして書き下ろしたもの。歴史を辿った後に作品を見てみると、より味わい深さが増していきます。

 
人気のオリジナルグッズも勢揃い!

そのほか、作品が描かれたカレンダーやクリアファイル、メモ、ボールペン、ストラップなどオリジナルグッズも充実。実用品なら、作品をより身近で見ることができるので毎日元気をもらえそう♪ 自分用にはもちろん、お土産にも喜ばれそうですね!

 
 
 
【鑁阿寺様】800余年の歴史を誇る鑁阿寺

鎌倉時代初期、建久7年(1196年)に源姓足利氏2代目の足利義兼が発心得度し、邸宅内に持仏堂を建てたのが始まり。境内には国宝に指定された本堂のほか、栃木県指定、市指定の建造物や彫刻や文書、美術工芸品など、貴重な宝物類が多数残されています。
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相田みつを氏の遊び場だった境内を散策

太平記館からほど近い場所にある「鑁阿寺(ばんなじ)」は、鎌倉時代、足利義兼によって建立された真言宗大日派の本山。周囲は緑に囲まれ、穏やかな空気が流れています。ご本尊に「大日如来」が祀られ、“大日様”という呼び名で地元の人々に親しまれているとか。相田みつを氏の生家は鑁阿寺の東側にあり、幼い頃から境内でよく遊んでいたそうです。
 
国宝に指定された貴重な文化財も!

広々とした敷地内には、本堂、一切経堂、多宝塔などの重要文化財があります。本堂は類例が少ない禅宗様仏堂の初期の例として評価され、平成25年に国宝建造物に指定されました。
本堂の斜め向かいにある樹齢約650年の大銀杏は、県指定の天然記念物。2つの木が支え合っている様子から“縁結びの御神木”とも言われています。紅葉の時期は美しく色づき、風情のある景観が楽しめるそうです♪

 
【史跡 足利学校様】日本最古の学校で“教育の原点”を辿る

国内最古の学校であり、現代の学校教育の礎を築いた「足利学校」。宣教師・フランシスコ=ザビエルにより「日本国中最も大にして、最も有名な坂東の大学」と世界に広められ、3000人に及ぶ学生が勉学に励みました。時代の変化と共に明治5年で役割を終え、その後は足利市が管理し、大正10年、「足利学校跡(聖廟および付属建物を含む)」として国の史跡に指定されました。
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近世日本の教育遺産群として「日本遺産」に認定

相田みつを氏ゆかりの地を巡った後は、「足利学校」に立ち寄ってみました!
足利学校の創建については諸説ありますが、実は正確なことは分かっていないのだそう。歴史が明らかになるのは、室町時代に関東管領の上杉憲実が現在国宝に指定されている書籍を寄進し、鎌倉円覚寺の僧・快元を校長に任命して学校を再興した時期から。当時は国内で唯一「学校」と呼ばれる場所であったため、シンボルとなっている学校門には“學校”の2文字だけが掲げられています。平成27年に、歴史的ストーリーを通し地域活性化に寄与する「日本遺産」に認定されました。
 
“自学自習”の精神を育んだ建造物

入口の受付で入学証をいただき、いざ散策スタート! 施設内には、寄贈された書物が収められた「遺蹟図書館」、孔子が祀られている「大成殿(孔子廟)」、学生が学業に励んでいた「方丈」があります。
昔の学校というと寺子屋のようなものを想像していましたが、実際は“自学自習”を行っていたそうです。印刷機やコピー機がなかった時代は“書写”が基本。足利学校では貴重な漢籍を多数所蔵していたため、全国から多くの人々が本を書写しに訪れていました。写し終えた書は故郷に持ち帰り、それらが教科書の役割を果たしていたそうです。
現在、遺蹟図書館では様々な企画展が開催され、2019年10/25(金)~11/10(日)の期間は、国宝書籍「宋版 尚書正義」「宋版 周易注疏」「宋刊本 文選」が期間限定特別公開されます。
 
 
歴史の息吹が感じられる学習の場

かやぶき屋根の「方丈」は、学生の講義や学習、学校行事を行う際に使用されていた建物。学習部屋となっていた座敷のほか、庫裡(くり)と呼ばれる台所、外には菜園場、衆寮などがあり、全国から集まった学生が共同生活を送っていました。遠いところだと、沖縄から訪れる人もいたそう!
滞在期間は日帰りから数年とさまざま。もしかしたら、一緒に生活をする中で互いの夢を話したり、故郷の話をしたり、一生の友と呼べる関係を築いていたのかもしれませんね!

 
「令和書写体験」にチャレンジ!

こちらでは、書写や漢字試験も体験できるんです! 相田みつを氏の作品に触発されたのもあり、せっかくなので書写にチャレンジしてみました♪
今回挑戦したのは「令和書写体験」。「令和」の典拠となった万葉集、また過去の元号の典拠となったすべての書籍を足利学校で所蔵していることから、令和、平成の語源となった一文を書いていきます。きちんと書けるかドキドキしましたが、右側にお手本があるので安心! 書に集中すると心が無になり、「没頭する」という感覚をほんのわずかですが体験できました☆

 
東の小京都・足利めぐり お気に入りショット

今回初めて知った相田みつを氏のルーツ。作品だけでなく、人間的な一面を垣間見ることができました。さらに足利市の魅力にもふれることができ、楽しい一日となりました♪ またじっくり街中散策をしてみたいな~。芸術の秋もこれからが本番! 皆さんもぜひ巡ってみてくださいね☆

(取材日:2019年9月)